羊の夜をビールで洗う

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羊の夜をビールで洗う

シングルファーザーなプログラマーのワンオペ育児&暮らしのブログ。

群像掲載の、はあちゅうさん純文学デビュー作、三編の感想。

ブロガーとして有名な「はあちゅう」こと伊藤春香さんが、純文学としてはじめて書いた小説が、講談社の文芸誌「群像」に掲載されていることを少し前に知ったので、購入して読んでみることにしました。

 

 

群像といえば、私にはどうしても村上春樹さんの印象が強い文芸誌ですが、今回はあちゅうさんはその群像に原稿を自ら持ち込んで掲載にまで至ったのだとか。その行動力や、実際掲載されてしまう筆力は、さすがは有名ブロガーさんですよね。

 

ところで、はあちゅうさんといえば、私は自分のブログで以前こんな記事を書きました。

 

www.smartstyle-blog.net

 

このときは、山本周五郎賞の候補作にもなった、モデルの押切もえさんの作品との読み比べ記事を書いたのですが、はあちゅうさんの「とにかくウツなOLの...」の方は、小説の体裁を借りたビジネス書っぽい内容だったので、少々ジャンルの違うもの同士の比較になってしまったんですよね。

 

そのはあちゅうさんが、今度は本格的に純文学としての作品にチャレンジされた、とのことなので、公平を期すためにもこれはちゃんと読まないと!と思ったのでした。

 

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ところで、純文学って何をもって純文学っていうんでしょうね?人によってその答えは異なると思いますし、私はブンガクの専門家ではないので勝手な解釈なのですが、個人的には、

 

  • 文章を読んで、その人が書いたことがはっきりと分かる、オリジナリティや芸術性があること
  • 誰が読んでも解釈がほぼ一致する明快さというよりは、人によって異なる受け取り方ができる行間やアソビを含んだ作品であること

 

といったところが、なんとなく条件なのではないかな?と思っています。例えば、少し前に芸人の又吉直樹さんが受賞された「火花」では、上に挙げた条件がしっかり満たされていて、あぁ確かにこれは純文学として又吉さんにしかない味が感じられる作品だなぁ、と思いました。

 

そんな観点をもって、はあちゅうさんの三編も読んでみたので、まずはそれぞれの短編のあらすじを並べてみます。

 

「世界が終わる前に」

地味めな日本の女子大生である主人公が、香港大学の交換留学生として、最後の夏休みを満喫する間に、華やかで人気者な台湾系アメリカ人のボーイフレンドと、友達でも恋人でもない不思議な関係性を築きあげる話。

 

「サンディエゴの38度線」

アメリカ人交換留学生を恋人に持つ女子大生の主人公が、陽気なアメリカ西海岸のサンディエゴにて、彼氏と彼氏のルームメイトの3人で共同生活を送るなかでの、微妙なすれ違いを描いた話。

 

「六本木のネバーランド」

主人公の女子大生が、合コンで外銀勤めのサラリーマンと知り合って、海外出張で留守中のマンションを預かることになり、マンションに残されたパソコンからのメールを通じて、出張中のサラリーマンとの心の親交を深めていく話。

 

はー、あらすじ書くのって難しい。自分の語彙力のひくさ...。しかしこうして並べてみると明らかな通り、この三連作には、女子大生、留学、恋愛といった共通点があって、はあちゅうさん自身をモデルにした私小説になっていることが分かります。

 

もう一つの共通点は、夏休み中や海外出張中だったりと、期限のあるひとときに生まれて、ふっと消えていく関係性を扱った作品、ということです。短編という都合もあったのかもしれませんが、はあちゅうさんはこういう刹那的な人間関係に文学性を感じる、ということなのでしょうか。

 

個人的に一番好きだなぁと思ったのは、「サンディエゴの38度線」かなー。三編にはどれも、影の部分や危なっかしさを備えた男性が登場するのですが(これもはあちゅうさんの好み?)、その影のところに最も読者の想像の余地、つまりはアソビを持たせているのが、この作品だと思いました。

 

あと、「六本木のネバーランド」では、EメールとLINEのコミュニケーションの速度の違いを小説の題材にしていて、Eメールを古くさくて逆に新鮮なもの、として書いている辺りは、デジタルの領域にも強みのあるはあちゅうさんらしい表現だなぁ、と思いました。

 

とそんなわけで、三編のそこかしこに、はあちゅうさんならではの「間」や「オリジナリティ」を感じ取ることができたので、うん今度のは確かに純文学だなぁ、と納得しながら楽しんで読むことができました。

 

書き込み具合やボリューム的に、今回の三編は、はあちゅうさんにとっては純文学の扉を叩くための挨拶代わりにすぎないのかな、という印象は持ちましたが、より精魂込められた長編の次回作が出ればまた読んでみたいなぁ、と思える作品集だったと思います!

 

それはそうと、はあちゅうさんの短編集では、アジア人の女の子が留学でアメリカ人と関わる中で感じた多様性(ダイバーシティ)が、ご本人の経験を元にリアリティを持って書かれているわけですが、奇しくも先日誕生したトランプ政権が次々に繰り出す大統領令によって、それらが瞬く間に浸食されていくさまに、少なからず皮肉を感じずにはいられませんでした。アメリカ、本当にどうなっていくんでしょうね...。

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