羊の夜をビールで洗う

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羊の夜をビールで洗う

シングルファーザーなプログラマーのワンオペ育児&暮らしのブログ。

ダンスダンスダンス、のこと。

ずいぶん期間が空きましたが、定期的に何度も読み返していて、自分の考え方に大きな影響を与えていると思う本、について続けて書いてみます。2冊目は、村上春樹さんの「ダンスダンスダンス」です。

 

この本では、プロとしてきちんとした仕事をすること、リラックスをすること、についての考え方の面で、大きな影響を受けていると思います。

 

村上春樹 「ダンスダンスダンス」

 

「ダンスダンスダンス」は、「羊」シリーズと言われる、村上春樹さんの初期の三部作の続編的扱いの作品です。シリーズのそれまでの作品で登場する、羊を被った男や「いるかホテル」などが、前置きなく登場しますが、それらを読んでいなくても問題なく読み進められる作品だとは思います。

 

ダンスダンスダンス、のストーリーは、一本道ではあるものの、それほどはっきりした道があるわけではなく、いろいろな街や人の間を漂流するように物語が進みます。そのせいか、読み返すときも、はじめから読むのではなく、適当に開いた場所から読み始めたり、好きだった箇所をピンポイントに再読したりすることが多いです。

 

文化的雪かき

ダンスダンスダンスの主人公は、30代半ばで半年間なにもせずにぼんやりする生活をした後、社会復帰として、雑誌に食べ物などのPR記事を載せるライター、の仕事を再開します。私はまず、このくだりで書かれる主人公の仕事に対するスタンスの話が、けっこう好きです。

 

主人公は、雑誌の穴埋め記事を書く仕事を、好むか好まざるとにかかわらずだれかがやらなくてはいけない仕事であり、「文化的雪かき」であると表現します。ですが、主人公はそれらの仕事をより好みせず片っ端から引き受けて、期限を守って機械的に片付けていくだけでなく、「他の連中が手を抜くところを真面目にやる」ことで評価を上げていきます。

 

でも僕はベストをつくしてやった。インタビューの前にはできるだけ綿密な調査をしたし、他人があまりやらないような質問を考えた。構成に細かく工夫を凝らした。そんなことしたって特に評価されるわけでもないし、誰かから温かい言葉をかけられるわけでもない。僕がそういう風に一所懸命やったのはそうすることが、僕にとってはいちばん楽だったからだ。

 

率直に言って、この種の取材を僕みたいに丁寧にやる人間はそれほどはいないだろうと思う。真面目にやれば本当に骨の折れる仕事だし、手を抜こうと思えば幾らでも抜ける仕事なのだ。そして真面目にやっても、手を抜いてやっても、記事としての仕上がりには殆ど差は出てこない。表面的には同じように見える。でもよく見るとほんの少し違う。

 

この辺りのくだりは、主人公がキキという女性を追って漂流の旅をするための資金を獲得するまでの、物語の前置きにすぎないのですが、この何げない一節に、同じく書くことを職業とする、著者の村上さん自身の仕事へのスタンスが表れているような気がするんですよね。

 

決して、村上さんは小説の中で、一見くだらない仕事でも真面目にコツコツやることが大事だ、なんて単純に説いているわけではないと思うのですが、どんな仕事でもそれが自分にとって満足(=ラク)だと思える基準を持つことの大切さ、その積み重ねが仕事の仕上がりの差に表れること、をそれとなく示されていると思うのです。

 

ハワイ

物語の中で主人公は、普通の人があまり出会わないような、変わった登場人物に何人も遭遇します。中学時代の同級生で、美形で絵に描いたような成功者である映画スターの五反田くん、前衛的な写真家で仕事の情熱に火が付くと子どもをほっぽり出して取材に行ってしまうアメ、などです。

 

中でも、私はそのアメの娘として登場する、ユキという名前の少女のキャラクターが好きです。ユキはロック好きな中学生の美少女で、ロックバンドの名前が書かれたTシャツをいつも着ている、アウトサイダーな感性の持ち主として描かれています。

 

物語の後半、主人公とこのユキの二人がハワイにバカンスに行くシーンがあります。この奇妙な組み合わせの二人が、ハワイでくつろぐシーンも、私がこの小説で好きな箇所の一つです。私も、主人公と同じ年の頃に一度だけハワイに行ったことがありますが、このシーンを読まなければ、一生で一度もハワイに行ってみたいとは思わなかったと思います(それまではクイズ番組の賞品、というイメージだった)。

 

主人公たちは、ハワイにいるユキの母親に会う、という一応の目的はあるものの、主には「休憩時間」を取るためにハワイに行きます。ハワイに着くと、まずラジオカセットを買って、ビーチでただ寝転がったり、ゆっくり時間をかけて肌を焼いたりしながら、頭のネジを緩めます。

 

母親の家を訪問しない日には、僕らはサーフィンの練習をしたり、泳いだり、ただ何をするともなくビーチに寝転んだり、買い物をしたり、レンタカーを借りて島のあちこちをまわったりした。夜になると僕らは散歩をし、映画を見て、ハレクラニかロイヤル・ハワイアンのガーデン・バーでピナ・コラーダを飲んだ。僕は暇にまかせていろんな料理を作った。我々はリラックスし、指先まで綺麗に日焼けした。

 

物語の進行上のイベントはいくつか起こるものの、主人公達はだいたいこのようにして、ハワイで二、三週間のバカンスを楽しみます。この時間の使い方が「ぜいたくでいいなぁ」と思って、一度はハワイに行ってみたい、と思うようになりました。

 

さすがに自分が行ったときは、二、三週間というわけにはいかず、四泊くらいしかハワイにいられませんでしたが、 それでもめぼしい観光地を一通り廻った後、一日はここで書かれているような過ごし方をして、とてもリラックスできたことは今でも強い記憶に残っています。

 

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村上春樹さんの「ダンスダンスダンス」は、個人的にはストーリーそのものが特に印象に残っているわけではなく、かといってラストが良いと思っているわけでもないのですが、長編の中にそれとなく散りばめられているワンシーンが、自分のオンとオフそれぞれに大きな影響を与えている、という意味で、印象に残っている作品です。

 

今年になって、通勤時間に英語の小説を読む、ということを始めていて、まずはとっかかりに、なじみ深い村上作品の英訳から読み始めているのですが、最近ようやくこの「ダンスダンスダンス」の英訳版を読み終えることができたので、エントリにしてみました。英語版は、日本語のものよりもボリュームが抑えられていると聞きますが、それでも私の英語力では8ヶ月くらいかかりました...(本当はお盆あたりに読み終えているはずだった)。

 

村上作品は読みやすさ、分かりやすさも多くの読者を惹きつけている魅力だと思いますが、英語版で読んでもその読みやすさ、音楽のような文章のリズム感は健在ですね(もちろん元々のストーリーを知っている、というのもありますが...)。英語版で読むと、五反田君やアメも日本語版とは違ったイメージで脳内に浮かんだり*1と、新しい気づきがあって楽しかったです。

 

村上さんの作品は、英語版の方が、Kindleで読める物も多いので、村上さんの作品のファンの方はぜひ英語版の方も読まれてみることをオススメしますよ〜。

 

 

おまけ

その他の人生で何度も読み返している本、の話はこちら。

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*1:私の中では、英語版のアメは「プラダを着た悪魔」のミランダのイメージで再生されました。

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