羊の夜をビールで洗う

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セレブ女子小説、読み比べ(山内マリコさん vs 原田マハさん)

年明けに読んだ二冊の小説が、たまたま「セレブ(お金持ち)」な登場人物が数多く登場する、という点でテーマが近しかったので、久しぶりに読み比べ形式で感想を書いてみます。

 

山内マリコ 「あのこは貴族」

 

このブログでも何度か取り上げている「地方女子小説作家」山内マリコさんの新刊です。現在、山内さんは、原作を書かれている「アズミ・ハルコは行方不明」の方でも、映画が上映中ですね。こちらもキャスト的に絶対そのうち観たい!

 

azumiharuko.com

 

それはさておき、この「あのこは貴族」では、対照的な二人の女性が主人公になっています。一人は、東京の裕福な家庭に生まれ、小学校から大学までカトリック系の私立女子校で育った華子。もう一人は、地方の漁村に生まれ、たたき上げで慶応大学に合格するも、実家の都合などで紆余曲折を経た人生を送る美紀です。

 

その華子と婚約関係を結び、美紀とは「過去の女」の間柄にある男性として登場するのが、幼稚舎から慶応に通う「内部生組」のエリートである青木。物語は、この三人をめぐる三角関係を中心に描かれていきます。これらの登場人物の背景の通り、この小説も山内さん十八番の地方女子小説色全開な作品になっています。

 

前半は、東京育ちの華子の物語なのですが、まずこの前半、下記の表現に象徴されるように、地方Disがすごい(笑)。

 

華子は知らなかったのだ。外の世界ではこうして、自分にはなんの関係もない人と、唐突に引き合わされる可能性があるのだということを。東京には、いろんな人がいるということを。さまざまな場所で生まれ育ち、さまざまな方言を操る人がいて、彼らが自分とアクシデント的に交わることも、当然あるのだということを。さっき店で会った男性は、華子にとってどこか外国人のように映った。得体の知れない場所からズカズカと東京にやって来て、馴染みのない言葉を喋り、我が物顔に振るまう人たち。そういう人たちは、華子が求めている相手ではないのだ。

 

思わず、「ちょっとちょっと!これ炎上必至じゃないの?」って思っちゃいますよね。まぁでも、ここは落ち着いて続きを読んでいきましょう。

 

(以下、ちょっとネタバレ含みます)

 

後半の美紀の物語でも、慶応内部生組の青木と外部組の美紀を対比して描くことで、山内さんはさらに地方と東京(の中でもさらに一部の東京)との断絶を際立たせます。しかし、物語が進むに従って、この美紀こそがこの小説の大ドンデン返しのキーパーソン、として存在感と魅力を際立たせていきます。

 

物語の中の青木は、華子よりもさらに裕福な家柄に育ち、職業も弁護士で何一つ不自由したことなく、自分に合わせて周りが動いて当然、と思うタイプ。そんな青木から見たら、当初美紀は都合のよい女扱い...だったはずなんですが、そんな美紀こそが青木にとって作中の彼曰く「飼い慣らせない」存在になっていくんですよね。

 

前半の地方ディスりからの、この展開・構成は見事。山内さんの型である、地方女子小説の総仕上げであり、真骨頂ともいえる作品なんじゃないかな〜、と思いました。

 

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原田マハ 「総理の夫」

 

もう一作は、原田マハさんの「総理の夫」という作品です。原田マハさんは、作家になる前にフリーのキュレーターをされていたこともあって、「楽園のカンヴァス」のように美術をテーマにした小説が多いので、政治がテーマなのは珍しいなぁ、と思い手に取ってみました。ちなみに、文庫版の巻末には「現職のファーストレディ」である安部昭恵さんがあとがきを書かれています。

 

「総理の夫」は、日本で初めて女性の総理大臣が誕生した、という設定で、その夫である主人公が、ドキュメンタリーふうに夫から見た総理大臣の妻を語る、という構成になっています。

 

山内さんの作品を読んだ後に、原田さんの作品を読むと、原田さんの小説の構成の「奇をてらわなさ」に少々毒気を抜かれます。日本で女性総理が誕生したとして起こりそうなことや、女性総理が誕生したらそうなって欲しいこと、が順を追って一つづつ起こっていく。

 

政治小説として読んでも、例えば真山仁さんのような政治記者あがりの方が書く本格派なものを想像してしまうと、ライトに感じるのは否めないかもしれません。小説で総理となる凛子は、連立与党の中の少数政党の党首という役割から首相に着任するので、かつての細川内閣をモデルにしていると想定されますが、特に目立った成果の印象がないあの内閣を、わざわざこのタイミングでモデルにする必然性が感じられませんし、絵に描いたようなハッピーエンドも政治小説にはちょっと似合わないような。

 

けれど、そこはそれ。この奇をてらわない王道っぷりこそが原田さんの型なのだろうな〜、と読んでる途中から思い直しました。そして、原田さん最大の武器である元キュレーターとしてのセンスは、この小説の中でもいかんなく発揮されています。特に、総理の夫を鳥類の研究学者、という設定にして、物語の重要なエピソードが鳥の習性を交えて語られるあたりのセンスはさすがだな!と。

 

セレブリティな女性を扱った小説、というテーマ一つとっても、やっぱり作家さんによって個性が出るな〜、と読み比べていて面白かったので、並べてまとめてみました。どちらも一気に読み切ってしまうくらいには、十分に面白くて読み応えある小説だったので、よろしければどうぞ〜。

 

おまけ

過去の小説読み比べのエントリはこちら。

 

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