ワンオペ育児を超えてゆけ

旧「羊の夜をビールで洗う」。シングルファーザーなプログラマーのワンオペ育児&暮らしのブログ。たまにガジェットネタも。

流しのしたの骨、のこと。

長い期間ずっと好きでいる本のことについて書いてみます。人生のところどころで何度も読み返していて、自分の生活や考え方のベースの一つになってしまっているような本のことです。一冊目は江國香織さんの「流しのしたの骨」です。

 

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江國香織  「流しのしたの骨」

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流しのしたの骨、は厳格なお父さんと古風なお母さんと四人きょうだいの生活を描いた本ですが、その四人のきょうだいの誰もが魅力的に描かれています。

 

主人公の三女こと子は、家事手伝い(今でいうところのニート)をしている19歳の大人しいけど真面目で芯のありそうな女の子で、冒頭で知り合った深町という同級生の男性と交際をはじめます。作品中のこと子のセリフで、一番インパクトのあるものはなんと言っても、交際してしばらく経った深町に対して放った次の一言です。

 

「そろそろ肉体関係をもちましょう」

深町直人は私の顔をじっとみた。私もみつめ返す。

「つまり、いやじゃなければってことだけれど」

少し弱気になってそうつけ加えた。

 

言葉を投げかけられた深町くんも当然びっくりしているわけですが、「いまどき肉体関係という言葉って。」「そもそもそんなシチュエーションないわー」と思ってしまいまそうなのに、この小説の中ではありそうに思えてしまうところが不思議です。誠実なゆえからその言葉が出てきたこと子と同様、その言葉を同じように誠実に受け止めて対処する深町くんもなかなか素敵な「彼氏」です。

 

次女のしま子ちゃんは、これも今でいうところの「メンヘラ」で、現実にいたら距離を置いてしまいたくなるような女の子なのですが、破天荒で「ズレた」行動の中に、妙に人を引きつける魅力があります。

 

枕のわきに、透明な液体が少しだけ残っているガラス壜が転がっていた。甘い匂いのもとはどうやらこれらしい。ラベルには、杏の絵とVODCAという文字がみえる。

「これ、壜ごと飲んでたの?」

まるで禁酒法時代の西部女だ。フリルだらけのペチコートとか。しま子ちゃんはなかなか泣きやまない。 

 

なんてあたりのくだりがとても好きです。この話が映画になったとしたら、きっと一番絵的に見栄えがするのは、このしま子ちゃんなのではないかと。

 

末弟の律くんは、私がこれまで小説で読んだ男性の登場人物の中でも、一二を争う好感度ナンバーワンの男の子で、私は息子の名前を考えるときにこの名前を候補にしたほど(名字とのバランスが合わずにやめましたが)。

 

こと子がおみやげに持ってきたカエルのおもちゃを面白がったり、フィギュアの製作のお手伝いをして学校で叱られたり、誰もがいっぷう変わった性格の持ち主の家庭を冷静な観察眼から見た何気ない一言を発したり、とにかく感性がいいんですよね。客観的にみれば、ただの「オタク」なのかもしれませんが、やっぱりこの話の中ではそれが好感度として見えてしまう。

 

そして最近この本を読み返すときには、四人のきょうだいの中で最も「ふつう」とも言える長女のそよちゃんの書かれ方が一番気になっています。

 

作品の中でそよちゃんは夫である律下と別れ、離婚した後に子どもを宿していたことが周囲に伝わるのですが、そよちゃんはなぜ夫と別れなければならなかったのか、なぜ子どもを宿しているのに離婚を決意したのか、などそよちゃんの書かれ方には作中の人物のなかで一番たくさんの行間が残されている気がして、読み返すたびに思いを巡らせてしまうのです。

 

流しのしたの骨、には他にもみんなでしゅうまいを作るシーンや、お母さんが「野趣溢れる夕食」を用意して食卓を困惑させるシーンなど、他にも好きな場面がたくさんあって、人生の節目節目で読み返しては少しづつ読み方が変わっていることを実感しています。この先もそんな本を増やしていきたいなぁと思いながら読書に耽る今日この頃です。

 

おまけ その1

流しのしたの骨、について追加で考察してみたエントリはこちら。

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おまけ その2

その他の、過去に読んで影響を受けた本の話はこちら。

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